MENU

大榎克己氏インタビュー[最終回]

インタビュー:2024年1月


-前回の集会で「クラブには哲学が必要」と話されていましたがそれを作るのは難しいのですか?

私は基本的には育成だと思っています。まず「育成がどういうサッカーをするのか」というのがベースになると思っていますので、子供たちを育てて、その選手たちがトップに上がって同じサッカーをやるということです。

-トップが行うサッカーに、育成が合わせるのではなく?

育成がベースになります。それに足りない部分を外国人や移籍で補うということが必要になると思います。トップのサッカーが先か、育成が先かというのは卵とニワトリみたいな感じですけど、育成の選手をどう育てるのかがクラブの哲学になるのだと思います。

-大榎さんは「フィロソフィー作成チーフ」という役職につかれていたと思いますが?

はい。森岡(隆三前アカデミーヘッドオブコーチング)などとずっとやっていました。本当に細かく全部作りました。こういうサッカーをするためにはどういう守備をするのかとか、攻撃はどういう攻め方をするのかとか、ポジションごとに細かいものを全部作りました。でもそれはオープンにするものではないので、皆さんには伝わってはいないですね。

-そうすると、今クラブはその哲学に基づいてやっていると?

そうなのですが、監督もそれに合わせた監督を招聘しなければいけないですし、それに合った選手……ただ、さっきも話したようにトップの監督はチームを勝たせなければいけないということが大前提にあるのが難しいですね。でも、育成はそれに基づいて取り組んでいます。ですから、理想としてはクラブとしての形があって、それに監督の色をつけて勝たせるチームを作ってもらうということです。

-ポゼッションサッカーとか、サッカースタイルというものも哲学に含まれるのですか?

そうですね。ですから、やっぱりエスパルスは攻守において主導権を握ることができるサッカー。そのためにはしっかりとボールを保持することが必要で、これは昔から言っていて、パワフルなフィジカルを生かしたサッカーというのが今はありますけど、静岡・清水のサッカーはしっかりとボールを止める、繋げる、そして相手が来ても往なせてボールを運べるという技術を徹底してやれるスタイルを追求すべきだと思っています。

-でも、今のエスパルスは勝てば何でも良いというスタイルに見えますが?

そうですね。まず選手の選び方がそうはなっていないですよね。どんな意図を持ってその選手たちを集めてやるのかが不明瞭ではないですかね。

-清水の哲学には沿っていないと?

ポジション別でのプロファイリングも作ってあります。センターバックであれば180センチ以上でヘディングが強くカバーリングの意識が高い。インターセプトにも長けているという……でも、それは最高の理想のセンターバックであり、ではそういう選手にするためにどういうカリキュラムを組んで、どう育てて行くかという細かな部分までやっています。

-そうすると、そういう選手が育ってトップチームで活躍すればエスパルスの哲学となると?

そうすれば、誰もがエスパルスはどういうサッカースタイルなのかは分かってもらえると思います。そういうDNAを持った選手がピッチ内に5人いればそういうスタイルになります。

-そのチャンスは何回かあったと思うのですが、結果も出ないまま現状に至ってしまっているということで、何を変えなければいけないと思いますか?

やっぱり、育成からトップまでの縦の関係でどういうサッカーをして行くかという共通理解を持つべきですね。当然そこには自分の考えるサッカーとの個人差はありますけど、クラブとして、エスパルスはどんなサッカーをするのかというのをみんなが理解した上で、このポジションにはどういう選手が必要なのか。その選手を育てるためにはどういう風にしたら良いのかなどです。

-それがまだ実現できていない?

そんな簡単にできるものでもないですよ。でも、我慢強くやって行かないとただの寄せ集めのクラブになってしまいます。良い選手だけを集めても勝てていない現状もあります。フォワードの選手のタイプにしても、身長があってポストプレーが得意な選手もいれば、裏へ飛び出して行く選手もいます。ではエスパルスにはどんな選手が欲しい、必要なのかという話になりますよね。残念ながら今はそういう統一性がなく、だからお金だけをかけても強くはならないということだと思います。

-でも、ある程度のお金をかけないとその足りていない部分は補えないわけですよね?

それはそうですね。例えばですけど、大木武(熊本監督)さんのところなどは本当にお金がないと思いますし、ちょっと活躍すればすぐに抜かれてしまうのが今の熊本です。でも、大木さんがやろうとするサッカーを実現するためにスカウトが動いているわけです。しかも、トップクラスの大学生はみんなJ1クラブが持って行ってしまうから、その次のクラスの選手で大木さんのサッカースタイルに合う選手をしっかりと探して獲得してくるのです。活躍すれば移籍してしまうということは頭に入った上で、それも含めてチームを毎年作っていると思います。それに資金に余裕があれば、今いる選手も抜かれずに、しかも既に活躍していて、そのサッカースタイルに合う他クラブの選手も獲得できて、それらを積み重ねることで強くなって行けるのだと思っています。

-エスパルスが強くなるために今やれることというのは?

今は外国人の獲得ではないですかね。日本人で補えない分を外国人で補うということ。やっぱり点を取るところはサッカーで一番難しいところだから、そこのスペシャルな選手は必要だと思います。それが外国人なのか日本人なのかは分からないですけど、必要だとは思います。私は(北川)航也には期待しているのですけどね。守備も頑張ってやろうとしているし。でも彼の良さが出せていないのがエスパルスに戻って来てからの彼ではないのかなと思います。

-昨年は、エスパルスの試合はアイスタでご覧になられていましたか?

観られる時はDAZNで観ていましたけど、土曜日も仕事が多かったので全試合ではないですし、スタジアムには行ってませんね。

-最後にサポーターに向けて何かありますか?

J2でも、あれだけの後押しをしてくれることは選手にとっては心強いと思います。もちろん「勝たなければタメ」なのですが、「どのような勝ち方をする」とか、「どのようなサッカーをする」という部分にはエスパルスのサポーターには拘ってもらいたいですね。

-ありがとうございました。またいつの日か戻って来てもらえればと思っていますのでよろしくお願いします。

ありがとうございました。陰ながら応援しています。

 

プロフィール

1965年生まれ
静岡県清水市(現静岡市清水区)出身
清水FC、清水東高等学校、早稲田大学を経てヤマハ発動機サッカー部(現ジュビロ磐田)に社員選手として入社し日本代表にも選出された。Jリーグ発足前年に清水エスパルスへ移籍し、オールマイティなプレースタイルで主力として活躍した。2002年の引退後は清水エスパルスコーチ、早稲田大学のア式蹴球部監督、清水エスパルスユース監督、2014年に清水エスパルストップチーム監督に就任。その後は清水エスパルスのGMなどを歴任し、現在はクラブからは離れ、掛川市にある医療機関で従事している。